柴犬1コマ劇場 世界むかシバなし『かぼずきん』

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写真提供/飼い主さん

目次

おばあさんの家へ

ある晴れた日の朝、かわいい柴犬が森の小道を歩いていました。
柴犬はいつもかぼちゃの形の頭巾をかぶっていたので、「かぼずきん」と呼ばれていました。

かぼずきんがくわえているお散歩バッグの中身は、鹿のアキレス腱とボーロ、携帯用の給水ボトル。
森の奥に住むおばあさんへのおみやげです。

かぼずきんは、いちおうおばあさんの家を目指していましたが、森の中には気になるものがいっぱい。
あちこちクンクンしたり、シーをかけたりしているうちに、少しくたびれてしまいました。
とりあえず、草むらにへそ天で寝転んでひと休み。
ゴロゴロしていると、おなかがすいてのどもかわいていることに気づきました。

かぼずきんは鼻歌を歌いながらお散歩バッグを開け、ボーロと水筒を取り出しました。
飼い主さんからは、「おばあさんへのおみやげだから、途中で食べちゃだめ」と言われていますが、おなかがすいたのだから仕方ありません。
柴犬は基本的に、飼い主さんの指示より自分の判断を優先するのです。

森でひと休み

かぼずきんはボーロを2~3粒かじり、水筒からグビリとひと口飲みました。ゲホゲホゲホッ!
「ちょっと、何これ。お酒?」
かぼずきんは、注意深く水筒の中身をかぎました。
「なるほどね。山廃仕込みの純米酒ってとこかな。お米はたぶん、山田錦ね」
贈答品ということで奮発したのでしょう。
いつも飼い主さんが自宅で飲んでいる紙パック入りのお酒より、かなりよい品のようです。

かぼずきんは草の上に座りなおし、給水ボトルのトレイに、あらためてお酒を注ぎました。
ボーロの袋はバッグにしまい、かわりに鹿のアキレス腱を取り出しました。 どう考えても、日本酒にはボーロより乾きものが合うからです。
「本当はぬる燗でいきたいところだけど、まあいいか」
かぼずきんは、鹿のアキレス腱をかじりながら手酌で昼酒を楽しみました。

「さて、そろそろ行こうかな」
太陽が真上を回ったころ、かぼずきんは立ち上がりました。
いい具合に酔っ払い、おなかもほどほど。
あとはおばあさんの家でシメのラーメンを食べさせてもらい、昼寝をすれば完璧です。
まったく、昼酒ほど幸せなものはありません。
かぼずきんは荷物をまとめ、軽く蛇行しながらおばあさんの家へ向かいました。

乱暴なおばあさん

バリバリ。ガリガリ。
ノックのかわりに玄関のドアを前足でひっかくと、おばあさんがドアを開けてくれました。
「おばあさん、こんにちわ~」
かぼずきんは簡単に挨拶すると、おばあさんの足元をすり抜けて家に上がり込みました。
おばあさんはドアの前に立ったまま、何か言いたげにこちらを見ています。
愛想がないのはいつものことなのに、何を今さら驚いているのでしょう。

かぼずきんが「ラーメン一丁!」と言おうとしたとき、おばあさんが近寄ってきました。
「あのー、かぼずきんや。今日の私は、いつもと少し違っていないかい?」
「え? そう?」
かぼずきんが適当に返事をすると、おばあさんはくどくどと話しはじめました。

「ほら、私の耳はいつもより大きいだろう? 
 こわがらなくていいよ、おまえの話をよく聞くためだから。
 目も大きいだろう? おまえの顔をよく見るためだよ。
 そしてほら、口も大きく裂けているだろう? 
 それは、おまえをひと口で……」

かぼずきんは面倒くさくなり、おばあさんの話が終わる前に背中を向けました。
そもそもかぼずきんは、おばあさんの耳や目、口のサイズなどよく覚えていません。
柴犬は、飼い主さんにしか興味がないからです。
一緒に暮らしているわけでもないのに顔を覚えてもらっていると思うなんて、このおばあさんはどこまでずうずうしいのでしょう。

ガチン!
かぼずきんの背後で、大きな音がしました。
ふりむくと、おばあさんが口いっぱいに柴犬の抜け毛をくわえています。
どうやら、かぼずきんにかみつこうとして空振りしたようでした。

おばあさんは、よほど遊んでほしかったのでしょう。
かぼずきんは、うんざりしました。
「おばあさん。パピーのようなまねはやめてください。
 私、よく知らない相手とじゃれ合って遊ぶのは好きじゃないんで。
 じゃ、帰りますね。おじゃましましたー」
換毛期の柴犬のアンダーコートを吸い込んでゲホゲホとむせているおばあさんを残して、かぼずきんは家を後にしました。

飼い主さんの待つ家へ

まったく、なんて乱暴なおばあさんでしょう。
おかげでラーメンも食べそこねたし、せっかくのほろ酔い気分もだいなしです。
フーとため息をついたとき、かぼずきんは、お散歩バッグをくわえたままだったことに気づきました。

このまま持ち帰ったら、おばあさんのためにおみやげを用意した飼い主さんはがっかりするかもしれません。
だからといって引き返し、またおばあさんの相手をするのもうっとうしい……。

かぼずきんはしばらく迷いましたが、やがて、あることに気づきました。
飼い主さんを喜ばせるためには、空っぽの水筒だけが入ったバッグを持ち帰ればいい。
だれが空っぽにしたのかは、飼い主さんに言わなければいいのです。

かぼずきんは、よっこらしょ、と木陰の草むらに腰を下ろしました。
給水ボトルの中には、まだ半分ほどお酒が残っています。
鹿のアキレス腱と、ボーロもたっぷり。

かぼずきんは幸せそうにため息をつくと、お酒をペロリとなめました。
こうして飲んで食べるのは、すべて飼い主さんをがっかりさせないためです。
決して、自分が昼酒の続きを楽しみたいからではありません。
本当です。
本当に本当です。

飼い主さんのためにここまでする私って、最高の忠犬だわ……。
鹿のアキレス腱と日本酒のマリアージュを楽しみながら、かぼずきんはお酒と自分に酔うのでした。

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